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001:春 の中から好きな歌。

001:春

雪国に行くトンネルを反対に抜ければそれが春ではないか  あみー

春とは何か、春とはどこにあるのか。そのシンプルな回答がこの歌なんだと思う。
有名な『雪国』の冒頭文を借りることで、春と対向するイメージを広く大きく作り出しているように感じた。
トンネルを抜けるのだけど、なんだかそこには人の目がないみたいだ。
電車がというより、
春とは何かという回答が矢印を描いてトンネルを抜けていくようなイメージ。
現実的でない感じ。


車椅子で自由に動ける春を待つ 本当は冬も好きなのだけど  橋都まこと

車椅子で動く立場からみた春。
冬は雪が降っていたりして、車椅子では自由には動けない。
はっとさせられる。
本当は冬も好きなのだけど、のところ。寒いなかを、雪の中を進みたいのだ。
切実なことなのに、軽やかにうたっているところがいい。


いきている壜をえらんで汲みにゆく春の水ならこぼさぬように  村上きわみ

ひらがなと漢字の配合がとてもきもちいい。
いきている壜は生きている瓶ではいけないし、選んでも零してもいけない。
いきている壜だけが春の水をこぼさずに運べる、そう納得する。
たとえば、実生活で壜に水を入れてこぼさずに運ぶ時に、
その生活の薄い膜の向こう側で、
いきている壜で春の水を汲む姿が、向こう側の世界に確かにあるのだ、という納得。
今いきているこの世界の姿から見えてくる、向こう側の世界を見せてくれる。
春という、万物が生きるということをし始める時期のそんな水は、
いきている壜で汲まなくてはならない。


まず雨にうたれた 白線をこえた おまえが投げわたす春菊は  我妻俊樹

春菊だけを追うカメラワークで、春菊が色濃く浮き立っている。
雨の当たらない所から投げられて、雨の中を通り、白線を越えて渡される春菊。
時間がまっとうに進んでいない。スローモーションでもない。
不気味な春菊だ。雨に打たれてずんと進み、白線を越えてずんと迫ってくる。
言葉が、日本語の言語野(脳)で、イメージを構築するのだけど、
その時に中でいつもと違うやり方をされている感じ。


(敬称略)


あと、短歌の一人称が「俺」の時、おおって思う。
なんでだろう、珍しいから?荒々しいから?草食系っぽくないから?かなあ。